3.french press
少し間の抜けたシンセサイザーが目覚ましの様に繰り返し鳴っています。ただ目覚ましにしてはいささか優しすぎるようです。どうやらまだ寝惚けていますね。フレンチプレスとはご存知の通りコーヒーの淹れ方の一つです。
こんな時は豆を多めに挽いて、とびきり濃いものを飲まなければなりません。
ようこそ穏やかな悪夢へ!”french press”はそんな曲です。曲名でそう言うものの、結論から言うと、飲めていません。詩を見ていただいたらわかるように、夢うつつの中から抜け出そうと「戦って」います。
間延びした歌のメロディーと遊んでいる様なシンセサイザーから、傍目からはふざけているようにも見えますが、当の本人はまさに戦っていて、今こそ悪夢に打ち勝ち現実を手に入れんとしているのです。 通常、悪夢をみること自体はそれほど悪いことではなく、むしろ浄化作用があるとされています。
起きている間に経験した嫌なことを心的に消化しているようです。とはいえ夢の中で何かに追われたり、凄惨な光景を目にしたり、その他様々なバリエーションの恐怖を体験することに前向きな人は少数でしょう。
話が逸れましたが、詩を見るにこの悪夢の主は自らが夢に居ることを自覚しているようです。
もしくは夢を見ていると決めつけたいのかもしれません。必死に目を醒まそうとしていますが、なかなかそうならない様子は、曲調も相まってなんだかコミカルですね。もはやこの人物にとっては、夢から醒めないことそれ自体が悪夢といえそうです。
さておき、この曲はアルバムの中では小品に当たりますが、この現在位置がわからないヘンテコさが私は好きです。ボーっと無意識に聴き流すのが良いでしょう。曲が終わったら、もしかするとなんらかの浄化作用があるとかないとか。