14.drive in the basement car park
怪しいイントロですね。しかしそれを過ぎると、穏やかなメロディーが聴こえてきました。切ないような印象もあります。それでは14曲目”drive in the basement car park”をご紹介しましょう。
今回のアルバムは全部で15曲。作った時期は結構ばらけていますが、それぞれの曲に思い出があります。さて、この曲は2017年に書いて、その後しばらく経ってから現在の形になりました。もとはドラム、ベース、エレキピアノと歌の単純な構成でしたが、M2と同じくSteely DanやDonald Fagenの影響を強く受けた曲だったので、それを踏襲するようにアレンジを施しました。作曲時もそうでしたが、完成形が見えるまでとても苦心した覚えがあります。
和声進行がやや難しく(そうしたのは私ですが)バランスがうまく取れなかったり、追加した楽器のメロディーが後の進行と「ちぐはぐ」にならぬよう気をつけたり、四六時中(うーむ…)と考えても何も進まなかったこともありました(この曲だけに限ったことではありませんが)。
パターンを試しては聴いて、試しては聴いてを繰り返しているとだんだんよくわからなくなってくるもので(大体は夜中です)、そうなると、よく散歩に出ました。歩きながら聴くと作業中よりは音楽に注意を払えないので、それが却ってまた違ったものを聞かせてくれることがあります。他の曲もそうやって散歩しながら聴くことは当然ありましたが、一番聴いたのはおそらくこの曲です。
さて、そんな苦心の甲斐あってか、この曲の後半、エンディングに至る展開はアルバム中でもお気に入りになっています。仄暗かった視界がひらけていくような美しい進行ですね。あとに一曲残ってはいますが、アルバムの終わりを表すに相応しいでしょう。
この曲はいわば、映画の最後のシーンあるいは最後のセリフです。このアルバム”Thus spoke gentle machine”の他のストーリーたちとは少し違う視点から、優しく、穏やかに、しかし「あきらめ」をもって一つの締めくくりを提示しています。ハッピーエンドとバッドエンドの彼岸から、流れるようなフレーズを持って、あるいは憧れを持って。