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新しい手洗いのために TOLTA(2020.11.22 New release)

2020年1月以来、世界史に残る全人類的出来事となった新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは私たちの生活を大きく変えました。4月から5月「緊急事態宣言」の直前から、仕事や生活のありかたを変えざるをえなくなり、2020年11月になったいまは、この感染症に適応した「新しい生活」を呼びかける言葉があちこちに掲示されるようになっています。

移動の自粛、在宅ワークの推進、三密を避ける環境をつくる、大勢が密集する場所ではできるだけ話をしない、大声を出さない。不特定多数の人に会う時はマスクをつけ、触ったものは消毒をする。感染症に対応するためのさまざまな方策がとられると同時に、日々、経済的・文化的な影響が積み重なっていきます。音楽フェスティバルや演劇、芸術祭、同人誌即売会、スポーツイベントなど、人と人が直接顔をあわせ、空間を共有することが前提となる祝祭が長期にわたり中止や延期となり、再開されても以前と同じようにはいかない。家の中からウェブの画面を通じて世界と向きあう時間がいやおうなく増えていく。全体的な変化(外出の際のマスクの装着といったこと)が、個人のレベルにおける変化(トイレットペーパーの数を気にするといった小さなことから、失業などで収入や身分を失うといった大きなことまで)と平行して起きていく。

これらの変化は同時に、2020年までに「できあがっていた」日本社会のさまざまな仕組みを目に見える形であらわにしたように思います。

私たちの暮らし――会社や学校や家庭や趣味の暮らし、そこにはもともとうまく機能していないことがいくつもあります。逆にとてもいい感じに働いて、私たちを豊かに、幸福な気持ちにさせていることもあります。生きるというのは、多かれ少なかれ、自分がおかれた環境に適応し慣れてしまう、ということです。豊かさにも貧しさにも便利さにも不便さにも私たちはすぐに適応し、自分がどんな仕組みによって生きているのか、生かされているのかに鈍感になります。

ところが「新しい感染症」は良くも悪くもこのような従来の仕組みを日々の生活で実感させるものでした。インターネットを通じたコミュニケーションや情報共有はこの感染症の影響で加速したとはいえ、私たちはまだ、新型コロナウイルス感染症によって生まれた「新しい社会」に適応できていません。

私たちTOLTAはこの状況のなかで、誰も否定しない本をつくりたいと思いました。

感染症および公衆衛生対策の基本は「接触の管理」にあります。そのための基本的な方法は「手を洗うこと」です。新型コロナウイルスCovid-19においては飛沫感染を防ぐためのマスクが重要とされていますが、はっきり目にみえる一方で顔の大部分を隠してしまうマスクの装着は、文化や体質によってなかなか受け入れられないこともあります。一方で、手洗いはほとんどの場合、目にみえません。手洗いは他人にアピールする行為ではなく、自分自身で完結する行動です。

多くの場合視覚優位な生き物である人間は、とかく、目に見えるものから問題にしがちです。しかし私たちの目は顕微鏡ではない。多くの場合洗った手も洗っていない手も私たちには区別がつきません。だからこそ私たちTOLTAは、手洗いについて考えることにしました。そしてできあがったのがこの本です。

『新しい手洗いのために』は、手を洗うという行為についての叙事詩です。

本書はTOLTAが2018年に開始した協同制作の方法論で作成され、TOLTAのメンバー各自が「手を洗う」ことについて思いをめぐらし、記述した言葉をあつめて作られました。本書は部分的に、手を洗うためのハウツーであり、手を洗うことの歴史であり、手を洗うことの物語となっています。

2020年11月22日発売・A5変型・64ページ・1650円+送料(税込)

新型コロナウイルス感染症を契機に制作したものには、本書のほか『閑散として、きょうの街はひときわあかるい』(TOLTA・マイナンバープロジェクト)があります。

本書は2020年11月22日開催の第31回文学フリマ東京でも販売します。よろしければトルタのブース(ツー41)に手を洗ったうえでお越しください。感染症対策のため、ご来場の前には文学フリマ事務局の案内をご一読ください。

企画・制作 TOLTA

河野聡子、佐次田哲、関口文子、山田亮太の四人からなるヴァーバル・アート・ユニット。2006年発足。詩を中心とした言語作品の多様なあり方を探求し、出版物のほか「言葉」との関わりを軸にしたインスタレーション・パフォーマンスを制作する。また多数の詩人、短歌・俳句・音楽・演劇等、他ジャンルのアーティストを巻き込んだプロジェクトを実施。主な刊行物に『TOLTA』1~5および詩集『この宇宙以外の場所』(TOLTA6)『閑散として、きょうの街はひときわあかるい』、パロディ教科書『トルタの国語』シリーズ、アンソロジー詩集『現代詩一〇〇周年』。主なインスタレーションに「ポジティブな呪いのつみき‐ダダでない、ダダでなくない展」(ダダ100周年フェスティバル + SPIRAL GALLERY VOLTAIRE/2016)「質問があります」(アーツ前橋×前橋文学館「ヒツクリコ ガツクリコ 言葉の生まれる場所」展/2017-2018)「ポジティブな呪いのつみき 2019」「漠然とした夢の雲」「ロボとヒコーキ」(東京都現代美術館「あそびのじかん」展/2019)。主なパフォーマンス作品に「代替エネルギー推進デモ」(2011、2017)「雨の確率」(自作ロボットと役者による演劇作品/2014)「スペクトラム・ダダ・ナイト」(ダダ100周年フェスティバル + SPIRAL GALLERY VOLTAIRE/2016)など。

toltaweb.jp

作品一覧

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TOLTA
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