8.sheep come at the same time
羊はたくさんの意味を持った動物です。普段、実際に羊を目にすることは(飼育でもしてない限り)ほとんどないですが、眠りに入ろうとする時「羊を数える」ことなどは、実践したことがあるかどうかはさておき皆さんもご存知でしょう。
これは英語圏が発祥で、羊を一匹ずつ数える時の”sheep”の発音が”sleep”に似ていることから自己催眠的な効果があるとされています。 また多くの宗教の中でも羊は意味を持った動物として扱われることが多いようです。
例えば、導くものを「羊飼い」、導かれる民を「羊」という風に比喩することがしばしばあります。 それでは、ゆったりとしたリズムが羊の足取りに聴こえてきたところで紹介しましょう、8曲目でありアルバムの折り返し地点”sheep come at the same time”です。
のんびりとした印象がありますね、羊の行列がこちらへ向かってくるようです。楽器の構成はドラム、ベース、ギターでバンドサウンドとしてはベーシックなものです。ドラムがハイハットを刻まない分、ふんわりとした輪郭を持っています。
詰めの甘いギターがそれをさらに誤魔化していますが、これが却ってよく働いていますね(ちなみに演奏者は私です)。 少し詩をみてみましょう。”Any hunter can be paul”が最初の一文です。”paul”というのはここではパウロないしサウロのことで、キリスト教の使徒であるユダヤ人を指します。
彼はもともと熱心なユダヤ教徒で、キリスト教徒を迫害していましたが、回心してキリスト教徒になったとされています。この「サウロの回心」のエピソードは、ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、「目から鱗」という諺の元になっています。
天からのイエス・キリストの声を聴いたサウロはその後盲目になってしまい、しかし一人のキリスト教徒がサウロのために祈ると、サウロの目から鱗が落ちて、また目が見えるようになったというエピソードです。その後サウロはキリスト教の使徒になるわけですが、その様から「新しい視点、発想を得る」という意味で使われるようになったのでしょう。
ではこの詩中で新しい視点を得るのは”hunter”ということになります。狩る対象が何にせよ、狩人は腕前や狩道具など「力」を持つ者です。あるいは下手な狩人なら力を持っていると思い込んでいる者かもしれませんが、どちらにしてもこの”hunter”というのは比喩であり、何かに対する力というのが一つのキーワードになっています。
例えば狩人が羊の数え方を間違えていたら、間違った夢に囚われているかもしれません。いつから間違えていたのか、本当にその獲物は正しかったか、分かるのは夢から醒めて瞳を得た時です。
少々比喩的になってしまいましたが、曲の緩い輪郭に合わせて、このままぼんやりさせておきましょう。そして鱗が落ちた後に起こるのは、いいことばかりとは限らないはずです。