ボーンデジタルは平成 29 年 10 月 12 日、株式会社スクウェア・エニックス 第二ビジネス・ディビジョン(以下、BD2)Lead Character TD の岸 明彦氏、 Lead Character Setup Artist の岩澤 晃氏をゲストスピーカに迎え、『FINAL FANTASY XV のキ ャラクターセットアップワークフロー セミナー ~Body から Facial、そして Procedural Animation へ』を実施した。
「FINAL FANTASY XV」は、シリーズの特徴である圧倒的な世界観とグラフィックに加え、高い自由度と臨場感を味わうことができるオープンワールドの採用、アクション性の高い爽快なバトルシステムの導入などが人気を呼び、全世界の出荷・ダウンロード販売本数の累計が 650 万本を突破した大ヒットタイトル。
今回のセミナーは、その中でもリアルタイムにおけるリグシステム及びフェイシャルアニメーションという今までに踏み込んだことのない内容をふんだんに盛り込まれている。申し込み開始時からわずか 10 日程度で定員の 400名を超えるほどの応募があり、そのことからもスクウェア・エニックスの技術力、および本セミナーのメインタイトルでもあるFINAL FANTASY XVにおけるリアルタイムリグへの CG 業界関係者からの非常に高い注目を浴びていることがわかる。
これから第3回にわたるセミナーレポートをお届けする。
本作における BD2 での制作体制は、上記の通りだ。今回のスピーカーである岸氏、岩澤氏はゲームチームに所属し、主にインゲームのアセット制作に携わる。このゲームチームと共にプリレンダリングの映像制作を主体にするム ービーチームも同じ事業部に存在する。ムービーチームは昨年世界で劇場公開され、そのクオリティの高さに大きな話題を集めた映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY® XV』の制作をしたことが記憶に新しい。この二つのチームの他に、テクノロジー推進部(以下テク推)という事業部の枠を超えたスクウェア・エニックス社全体の技術開発の中核を担う部署の R&D チーム、TA チームも参加して本作が開発された。
Body Part Team
ボディセットアップチームの内部体制は 4 名。大別すると、アセット量産、アウトソース管理、リグツールなどの環境整備、R&D や共同開発などに分かれる。またアウトソース企業と共同で量産体制の仕組みづくりが行われた。内部のリソースとしては意外と思われるほど少人数の体制といえるだろう。チーム内の担当タスクは以下の図を参考にすると分かりやすいだろう。
Rigging Pipeline
ボディパートのセッションでは、主にNamedHuman(主人公など名前が付いている人物キャラクター)とモンスターキャラクターにフォーカスして解説された。キャラクターアセットが DCC ツールから内製ゲームエンジン(Luminous Studio)に渡されるまでのパイプラインは以下の通りだ。
ここで紹介されているモジュラーリギングシステム『CRAFT』とは、腕や脚など各部位ごとに操作の目的に合わせて最適に組まれたリギングモジュールをリガーが選択し組み合わせて使うことで全身のリグを構築できる汎用的な仕組みのことで、テク推のリードテクニカルアーティストの佐々木隆典氏が CEDEC2015 にて発表した下記のスライドに詳しく紹介されているので合わせて確認することを推奨したい。(http://www.jp.square-enix.com/tech/library/pdf/CEDEC2015_CRAFT.pdf)
コントロールリグが完成すると、アニメーターの手に渡され、ボディやフェイシャルのモーションキャプチャ、プライマリーのアニメーションなどの工程が同時並行で進められる状態になる。アニメーターがこれらの作業をしている間に、リガーの作業は、デフォームリグの工程に移るという
BODY RIGGING
モデリングが粗方完成しプロポーションが固まってきた段階でリガーに渡ってきたモデルに対して人体の関節位置に沿うように基本骨を作成する。基本骨とはアニメーションを入れる体幹骨の事を指す。
本作では、ムービーパートで登場するプリレンダーキャラと共通の骨格を使用したという。骨入れをする際には骨格標本や動画資料などを参考にしながらモデルの関節部分にボーンを打っている。背骨の間隔や鎖骨の位置などもなるべく現実の骨格に基づいた位置に置くように心がけたという。
ここまで出来たらラフのスキニングを施し『Luminous Studio』の『Ebony Editor』というキャラクター編集を行うエディタに出力し結果を実機で確認する。この時点では全てのアセットが仮のものであるため暫定的な出力であるため一日かからずにこの作業を終えているという。
本作では、1 体の NamedHuman で衣装に約 400 本、髪に約 100 本、表情用に 124 本で合計すると 500~800本ものボーンが使われている。これは、PS3 時代の約 2 倍のボリュームでポリゴン数においては約 4 倍になっている。ハードウェアの進化によって格段に表現できる物量が向上していることが分かるだろう。
更にコントロールリグが必要な NamedHuman とモンスターの数は 70 種類以上にも及んだ。その大部分は形状がユニークで骨構造が多種多様なモンスターで、バリエーション違いなども含めると 120 種類を超えている。
そこで、これらのキャラクターのコントロールリグを作る際に、岸氏は三つの目標を掲げることにしたという。
一つ目は、『リギング環境の構築コストの削減』。本作開発チームは使用ソフトを、 Softimage XSI から Maya に移行した直後だった。そのため、チーム内の Maya の習熟コストとリギング環境準備コストを出来るだけ抑えるために、共通のフレームワークを用いることでリガーによる組み方の違いを抑えることを狙いとしている。
二つ目は、『アニメーターのラーニングコスト削減』。一つ目と同様に、複数人でリグを組むことでキャラクターや担当リガー毎に仕様が統一されていない場合、アニメーターが仕様を理解するためのラーニングコストが負担となってしまう。その負担を回避することが目的だ。
三つ目は、『リギング作業のコストとメンテナンスの作業コスト削減』。例えば、仕様的に共通化できる部分も作業者毎に方法が異なってしまうと組み込みが手作業になり、工数が増える。それに対し、リギングを目的毎にパーツを分け、モジュール化した上で、チーム内でシェア出来れば構築も容易になり不測の不具合を極力抑えることが出来る。
これらの目標を達成するためにモジュラーリギングシステムが必須であった。そこで社内テク推で開発中であった『CRAFT』を採用することになる。
CRAFT
本作に登場する膨大なキャラクターを限られた期間の中で効率的に進めるために、2014 年頃からその準備を始められた。『CRAFT』は、GUI でリグの構築が進められるソリューションで予め用意されているモジュールのつなぎ方さえ理解していれば、リグの経験の浅い人やアウトソース先のリガーでも容易に目的に合ったリグを構築できる。
当時すでに『CRAFT』に実装済みであったのは、腕部リグモジュール、脚部リグ、頭部リグ、胸部などで、これらの人体のコントロールに必要な基本的なモジュールを駆使して NamedHuman キャラクターのリグが組まれていった。
2014 年当時の『CRAFT』はヒト型キャラクターにしか対応していなかったため、モンスターのリギングを構築するために本作を通じて実装されたリグモジュールが紹介された。下記はその一部となる。
どのリグも直方体のダミーオブジェクトに組まれた見た目は非常にシンプルな構造だが、アニメーターが触った時に直感的に操作が出来そうな印象を受けた。これらのリグモジュールはテク推だけでなく BD2 のリガーが自らの手によって実装されたモジュールも含まれており、『CRAFT』が開発者に依存したツ ールではなく、汎用性の高いフレームワークであることを強く印象付けた。
こういった『CRAFT』リグを用いてキャラクター全体の約9割程度のリグが用意され、また残りの1割も同様に『CRAFT』でベースが組まれたものをカスタマイズして使用された。『CRAFT』はムービーパートや他事業部の開発タイトルでも同時に使われており、部署の垣根を超えた連携においてもラーニングコストをほとんど必要とせず、同社のリグ技術を支える非常に重要なソリューションとなっている。しかし、この『CRAFT』は短期間で開発されたものではない。その始まりは 2010 年頃で、社内共通リグ環境を開発するために発足した。そこから約半年の時間をかけてゲーム開発部門でリグソリューションやコントロールリグの仕様の調査が行われ、開発に着手できたのは 2011 年 11 月。その約半年後に『CRAFT 0.0』がリリースされ様々な改良を経て実案件で使える『CRAFT 1.0』が 2013 年 12 月にリリース。現在も『CRAFT』は開発を継続しており日々更なる進化を遂げている。
コントロールリグの管理方法
こうして組まれたコントロールリグは、Maya のリファレンス機能によって管理をされる。例えばNamedHuman であれば、まずリグシーンと呼ばれる Maya シーンデータを用意する。これは、ジョイントのみのシーン、モデルのみのシーン、モデルバリエーションなどを一つの Maya シーンにリファレンス機能で読み込まれたもので、このモデルに対してリガーがコントロールリグをアタッチしていく。最後にセットアップシーンと呼ばれるリグシーンをさらにリファレンスしたシーンファイルがアニメーターに渡されキーフレームを打っていく。
しかし、モンスターなど特殊なキャラクターの場合はこれに加えて異なった管理方法をする必要があった。 本作ではバリエーションも含めると 80 種ほどのモンスター数となり、アニメーション制作コストも膨大になってしまうことが予想された。アニメーターからの要望は「モーション数を出来るだけ削減し共通化できるモーションを増やしてほしい」というもの。そこで、モンスターのリグシーンは基本骨の構造を統一、バリエーションモデルのコントロールリグも全て含んだ仕様となった。これで30 体程度のキャラクター数に絞り込むことに成功した。
参考例として紹介されたモンスターは、一見するとスケール感も異なり種族も全く違っているが、骨格的な面で見てみると同じ四足歩行で手足の付き方は共通している部分があるのが分かる。
このように基本骨の仕様を共通化してコントロールリグも共通にすることでリギングコストもメンテナンスコストも大幅に削減できると期待していたのだが、しかし実際にリグを組んでみると共通化出来ると思っていた部分がよく見ると全く異なった構造であることも非常に多かった。
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