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Site opening on 25 December 2021
飛翔
2021年は、FoMにとって飛翔の年となりました。このメモリアル年の最後のコンテンツとして、海鳥を公開いたします。
海鳥は、最上位捕食者として、海洋生態系には欠かせない生物です。北海道大学大学院水産科学研究院は、伝統的に、海鳥の生態研究が強いことが知られています。現在の海鳥研究分野の第一人者である綿貫教授とその研究グループの研究者および大学院生が、包括的かつ先進的な海鳥研究の知見をまとめてくださいました。ご堪能いただけると幸いです。
海鳥研究の重要性に気づかされたのは、約20年前の北海道大学附属練習船 おしょろ丸での小笠原航海の時です。鳥島近海を航行し、アホウドリの繁殖の最前線を、自身の目で見ることができました。洋上実習に参加した学生の多くが、この時の実体験を忘れていないものと感じています。練習船を保有する北海道大学ならではの魅力的なフィールド教育が実践されていました。
皆様には、素晴らしい2022年をお迎えいただきますよう祈念するとともに、今後も、海・海洋生物・食料・バイオなど、FoMを通じて、環境と食への関心を一層高めていただけるよう尽力いたします。
FoM Editorial
25 December 2021 posted
海鳥の起源と歴史
鳥類は恐竜の中の、集団で狩をする獰猛なヴェロキラプトルなどが属する、獣脚亜目マニラプトル下目に属します(綿貫 2008)。前肢の指が親指、人差し指、中指の3本である、など多くの派生形質を獣脚亜目と共有することが明らかになったからです。3本の指は、トリ手羽先を食べる時に確認できます。獣脚亜目は、後肢で体を支え、2足歩行し、そのため前肢の自由度を上げ、鳥類はこの自由になった前肢を飛行のために転用しました。
最も古い鳥類である始祖鳥(Archaeopteryx)化石は1億5700万年前から1億4600万年前のジュラ紀後期の地層から見つかっています。これより遅い時代からは、原始鳥類のエナンテオルニス類や古代鳥類の化石が出ています(綿貫 2008)。海鳥は、この恐竜=鳥類であることの制約のもとで海洋生活に適応してきた、生涯の9割の時間を海で過ごし、食物の全てを海から得ている海洋生態系の一員です(Figure: オオミズナギドリ Calonectris leucomelas, photo by B. Nishizawa)。
白亜紀前期末〜後期(~1億年ほど前から6550万年前まで)に生息していた海鳥であるヘスぺロルニス類は、古代鳥類に含まれます(綿貫 2013; 綿貫 2019)。ヘスぺロルニス類の翼は完全に退化し飛べませんでしたが、後肢の指の間に足ひれが発達しており、この足で漕いで潜水して、貝や魚を食べていました。彼らは、恐竜と同じ時代に生きていました。6550万年前に恐竜が絶滅した後の海鳥としては、3500万年前から1800万年前に生きていたペンギンモドキ類がいました。環太平洋北部に分布しており、広義のペリカン目の仲間だとされています。ペンギンのように小さな翼を持っており、これを羽ばたいて上手に潜水していましたが、飛行はできなかったとされています。一方、この頃、滑空に特化した海鳥もいました。ペラゴルニシ類と呼ばれるグループで、アホウドリ科と同じように、グライダー並みの細長い翼を持ち、うまく滑空飛行したと考えられています。今から5500万年前から300万年前という長い期間にわたって大空を飛び回り、世界中の海に分布していました。
これら3つの絶滅した海鳥類は現生海鳥類の祖先ではありません(綿貫 2013; 綿貫 2019)。
綿貫豊・北海道大学大学院水産科学研究院・教授
参考文献
綿貫豊 (2008) ジュラ紀=白亜紀温室世界とその終焉—恐竜から鳥類へ. 地球と生命の進化学:新・自然史科学I, 北海道大学出版会.
綿貫豊(2013) ペンギンはなぜ飛ばないのか?海を選んだ鳥たちの姿. 恒星社厚生閣.
綿貫豊 (2019) 空中と水中でのストローク. 鳥の不思議な世界. 一色出版.
25 December 2021 posted
海鳥の種類と現状
世界で現生海鳥と考えられるものは358種います。後で紹介するように、歴史時代に入ってから絶滅した4種がいたので、現在確認されているのは354種です。ペンギン目、ミズナギドリ目、ネッタイチョウ目、カツオドリ目、ペリカン目、チドリ目の6つに属します。
ペンギン目はフリッパー状になった翼で羽ばたき潜水します。1科18種のうち9種は南極・亜南極に繁殖します(Figure アデリーペンギン Pygoscelis adeliae, photo by A. Takahashi)。体重は1.2 kgのコガタペンギンから30 kgのコウテイペンギンまでと海鳥のなかでは比較的重いです。ミズナギドリ目は体重2 kg以上のアホウドリ科22種、0.4~4 kgのミズナギドリ科(Figure: シロハラミズナギドリ Pterodroma hypoleuca, photo by Y. Watanuki)96種(うち2種は絶滅)、0.1~0.2 kgのモグリウミツバメ科4種、0.1 kg以下のウミツバメ科24種の4つの科を含み、多くが南半球で繁殖しています。ネッタイチョウ目はネッタイチョウ科3種のみ。カツオドリ目はウ科35種(うち1種は絶滅)、カツオドリ科10種、グンカンドリ科(Titile figureオオグンカンドリ Fregata minor, photo by Y. Watanuki)5種を含みます。ウ科は体重1 ~3 kgで、足ひれをこいで潜水し、翼で飛行する羽ばたき飛行・足こぎ潜水者で、亜南極から南半球温帯域にかけて19種、熱帯・亜熱帯域に9種が繁殖し、カツオドリ科は体重1~ 3 kgで、同じく南半球と熱帯・ 亜熱帯に比較的多くの種が繁殖します。ペリカン目はペリカン科8種からなります。
チドリ目のうち、海鳥と呼べるのはトウゾクカモメ科、カモメ科とウミスズメ科(Figure エトピリカ Fratercula cirrhata, photo by B. Nishizawa)で、トウゾクカモメ科は北極圏から北極に5種、亜南極から南極に2種が繁殖します。カモメ科には体重0.2~ 1.5 kgのカモメ亜科と体重0.1~0.2 kg程度と小型のアジサシ亜科の計101種が含まれ、アジサシ亜科には北と南両方の温帯域に分布する種類もいます。トウゾクカモメ科、カモメ科は羽ばたき飛行に滑空飛行も交える羽ばたき・滑空飛行者です。ウミスズメ科には25種(うち1種は絶滅)が含まれ、体重0.2~1.3 kgでペンギンに似てずんぐりした体型で、翼で飛行しかつ遊泳する羽ばたき飛行・羽ばたき潜水者で、すべて北半球の温帯域から北極に繁殖します。
世界的に海鳥の数が減少しています。世界各地の海鳥の集団繁殖地(コロニー)の、各年の繁殖個体数データをつかって全世界の海鳥個体数の変化を推定したところ、1950年から2010年の60年間に、海鳥の個体数は、およそ3分の1にまで減ったことがわかりました(Paleczny et al. 2015)。海洋と島々において、これまで人間はさまざまな影響を与え続けてきました。特に、産業革命以降、船舶の大型化と高性能化が漁業を含めた人間の海洋進出を加速しました。海鳥の数が減少したのは、こうした海洋における人間活動が原因なのかもしれません。
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストによると、記録がある年代において、この世界から永久にうしなわれた海鳥(つまり世界絶滅した)で種が同定されたのは、オオウミガラス、メガネウ、小セントヘレナミズナギドリと大セントヘレナミズナギドリの4種です。こうした歴史記録がある年代以前にも、人間の入植が理由で絶滅した海鳥種も多数いたようです。その後も海鳥の数は急速に減少しており、現生354種のおよそ3分の1で絶滅が危惧されます。なかでもミズナギドリ目ではその割合が高く、特にアホウドリ科では7割(22種のうち15種)近くもが絶滅危惧種です。
日本でも海鳥の数は減っています。1980年代以前の日本の海鳥の現状をまとめた研究(Hasegawa 1984)では、オーストンウミツバメとウミガラスが減少したことが指摘され、北海道の海鳥について2000年ころまでの状況についてまとめた研究(Osa and Watanuki 2002)では、ウミガラス、ケイマフリ、エトピリカの数が1950年代から1960年代に急減したことが報告されています。各地のデータを統計的に調整したうえで、各種の個体数の変化をまとめると、アホウドリ、ウトウ、ヒメウは増加していますが、ウミガラスやエトピリカは1980年代以前に減少して以降回復しておらず、また、ウミウ、ウミネコ、オオセグロカモメは、2000年までは増加したもののその後は減少傾向にあることが新たにわかりました(Senzaki et al. 2019)。2018年度版環境省レッドリストによると、日本で繁殖する海鳥種のほぼ半数、アホウドリ、ウミガラス、ケイマフリ、カンムリウミスズメ、ウミスズメ、エトピリカを含む18種で絶滅が危惧されています。
綿貫豊・北海道大学大学院水産科学研究院・教授
参考文献
Hasegawa (1984) Status and conservation of seabirds in Japan, with special attention to the short-tailed albatross (Status and Conservation of the World’s Seabirds, International Council for Bird Preservation Technical Publication).
海鳥の運動能力
羽根、しっかりした胸郭部と大きな胸筋、気嚢など鳥類としての特性を元に、海鳥は広い海の中から魚群をさがし出しこれを捕らえる能力を進化させました。その能力とは、コウテイペンギンの深さ300 mをこす原子力潜水艦なみの潜水深度、ウミウの秒速2 mのオリンピック選手なみの遊泳速度、ワタリアホウドリの時速150 km近い軽飛行機に迫る飛行速度、ハシボソミズナギドリの8000 kmを越すジェット旅客機なみの航続距離などです(綿貫 2013)。こうした能力は、彼らが恐竜=鳥であるゆえに持ちえたもので、他の動物グループでは成し遂げられなかったものであると考えられます。
海鳥は海上を飛行して魚群を探し海中の魚とらえる必要があるので、水中と空中という物理特性が大きく異なる媒体の中で生活しています。二つの媒体の大きな違いとはその密度の差です。水の密度は空気のおよそ800倍なので、運動する物体に働く力は大きく異なります。水中を移動する場合には抵抗と浮力が、空中を移動する場合には重力がおもな力となります。働く力が違うので、空中と水中とを運動するのに適した翼の大きさとストローク速度も異なります(Taylor et al. 2003)。重力に逆らって大きな揚力を発生させるため、空中移動に適した翼は大きく(Figure ワタリアホウドリ Diomedea exulans, photo by M. Itoh)、これを速くストロークし、大きな抵抗に逆らって推進力を生み出すため、水中移動に適した翼あるいは足ひれは小さく(Figure オウサマペンギン Aptenodytes patagonicus, photo by K. Sato;)、これをストロークする速度はゆっくりとなります。
海鳥は手か足あるいはその両方を推進のためのプロペラとして使います。そのため、海鳥は水中と空中をうまく運動するために、カモメ科のような鳥としての基本的形をもとにして、5つのタイプの形態グループを進化させました(綿貫 2013) (Figure: the evolution of sea birds)。翼で推進する3つのタイプとしては、①グライダーのように細長い翼で滑空するミズナギドリ科・アホウドリ科、ペラゴルニシ類などの滑空タイプ、②小さい翼をはばたいて空中と水中の両方を飛行するウミスズメ科・モグリウミツバメ科などの羽ばたき飛行・潜水タイプ、③さらに翼を小さく水中専用の「ひれ」とし飛ばないペンギン科、ペンギンモドキ類のような羽ばたき潜水タイプがあります。
一方、足ひれを水中での推進に使うタイプとしては、④空中では大きな翼を羽ばたいて飛行し、水中では翼はたたんで小さな足ひれをこいで潜水するウ科のような羽ばたき飛行・足けり潜水タイプ、⑤さらに翼を小さくしたせいで飛ばなくなったかわりに、足ひれを大きくし、足で水をけって潜水するガラパゴスコバネウやヘスペロルニスのような足けり潜水タイプのふたつがあります。羽ばたき飛行・足けり潜水タイプは水中と空中それぞれに適した大きさのプロペラを備えていますが、それぞれを駆動するにはそれぞれ足の筋肉と胸の筋肉を必要とする点で、それらの維持は大変なのかもしれません。
運動機能を高めるために、形態だけではなく、別の特性も進化させました。例えば浮力の調節です。海鳥は羽毛にたくさん空気を含んでいるのでそれなりの浮力があるし、肺にも空気を持ったまま潜水します。潜水する際には上向きの力である浮力が邪魔になります。潜水性の海鳥はこの浮力を下げるため、羽毛中の空気の量を減らす工夫をしています(綿貫 2010)。その典型がウ類です。水面に浮いている時に、潜水しないアホウドリ類の体はかなり浮きますが、ウ類の体は大きく沈みます(Figure チシマウガラス Phalacrocorax urile, photo by M. Senzaki; Figure アホウドリ Phoebastria albatrus, photo by B. Nishizawa)。1枚1枚の羽根に水が浸透しやすい構造になっているからです。
こうした形態の多様化は系統とは関係がありません。分子系統によると、海鳥としては、チドリ目、ミズナギドリ目/ペンギン目、ネッタイチョウ目、カツオドリ目/ペリカン目の、それぞれ海鳥を含む、4つのクレード(根が一緒の任意の系統群)が6000万年前以前に分かれていました(Prum et al. 2015)。このうち、チドリ目クレードのなかでは3600万年前にカモメ科がわかれ、トウゾクカモメ科とウミスズメ科が3010万年前にわかれました(Paton et al. 2003)。このように6000万年より前と3600〜3010万年前というおよそ二つの異なる年代に独立して海洋へ生活の場を広げる進化が起きたのではないかと思われます。
海鳥の中では飛行能力の消失が見られます。絶滅種(系統)では恐竜の時代に生活していたヘスペロルニス類、広義のカツオドリ目に入るペンギンモドキ類、広義のウミスズメ科に含まれるルーカスウミスズメ科の3つのクレードで飛行能力の消失がありました。現生種(系統)では、飛行しない種を含む系統はペンギン目、カツオドリ目、ウミスズメ科の3つのクレードであり、ペンギン目にわかれた時、カツオドリ目のウ科においてコバネウが分かれた時、ウミスズメ科でオオウミガラス(19世紀に絶滅した)が分かれた時に飛行能力を失いました。つまり、飛行能力の消失の進化も独立して異なる年代に異なる6つの系統で生じました(綿貫 2019)。
綿貫豊・北海道大学大学院水産科学研究院・教授
参考文献
綿貫豊 (2013) ペンギンはなぜ飛ばないのか?海を選んだ鳥たちの姿. 恒星社厚生閣.
綿貫豊 (2019) 空中と水中でのストローク. 鳥の不思議な世界. 一色出版.
綿貫豊 (2010) 海鳥の行動と生態: その海洋生活への適応. 生物研究社.
Taylor et al. (2003) Flying and swimming animals cruise at a Strouhal number tuned for high power efficiency. Nature 425:707-711.
Prum et al. (2015) A comprehensive phylogeny of birds (Aves) using targeted next-generation DNA sequencing. Nature 526:569–573. doi:10.1038/nature15697.
Paton et al. (2003) RAG-1 sequences resolve phylogenetic relationships within Charadriiform birds. Molecular Phylogenetics and Evolution 29:268-278
海鳥の採食行動と食べ物
形態の多様性は採食行動とも大きく関係します(綿貫 2010)。カモメ科、アホウドリ科、ペリカン科といった滑空飛行あるいは基本形はほとんど潜水をしない表面採食者です。海面に浮いている魚やイカあるいは漁船などから投棄された魚や残飯をついばんで食べます(表面ついばみ)。低空から降下してこれらをくわえてすぐに飛び上がる飛翔表面ついばみや、海上に浮いたまま水中へごく浅く突入したり(表面突入)、また空中ある程度の高さから落下しながら重力を利用して加速し、慣性力によって水中1 mくらいまで突入して(空中突入)表層にいるオキアミや多獲性浮魚を捕えたりもすることもあります。
多くのミズナギドリ科、ウミツバメ科ももっぱら表面ついばみ採食しますが、ミズナギドリ科の一部、特にハイイロミズナギドリやハシボソミズナギドリは、数十mまで、羽ばたき潜水もします。カツオドリ科は重いので慣性力も大きく、その突入深度は数mにも達し、かなり深いところの魚群めがけて何十羽もがつぎつぎと突入します。水中突入時の抵抗を最小にするため翼をすぼめて水面に突入します。ペリカン科やクジラドリ類は海水を魚やプランクトンといっしょに口に入れてくちばしの櫛版などで餌生物をこし取ります。カモメ亜科、トウゾクカモメ科はウミスズメ科やアジサシ亜科が雛に給餌するためにくわえてきた魚を横取りすることもあります。潜水採食には、ウ科のように足でこいで潜るタイプ(足こぎ潜水)とペンギン科とウミスズメ科のように翼で羽ばたいて潜るタイプ(羽ばたき潜水)とがあり、それぞれ、表層で群れを作るイワシ類やオキアミ類などを追いかけて捕獲する追跡型と海底の岩の隙間にいる底魚を探し出して捕獲するか、砂に潜むイカナゴを追い出して食べる海底潜水型の採食します。
海鳥は多様な餌を食べます。海鳥の餌を調べるにはいくつかの方法があります。ウミスズメ科やアジサシ亜科などは魚をくわえてきて雛に与えます(Figure イカナゴを嘴にくわえて来たニシツノメドリ Fratercula arctica, photo by A. Takahashi)。その時捕獲してその餌を採取します。胃に餌を入れて持ち帰るペンギン科やミズナギドリ科では胃内容物を胃洗浄法で吐かせてサンプリングします。また、消化吸収され体組織に取り込まれ、体組織に合成された有機物を使って餌に関する情報を得ることもでき、窒素と炭素の安定同位体比を測る方法、皮下脂肪の脂肪酸組成から餌のシグナルを判別する方法などがあります(綿貫・高橋 2016)。
海鳥の餌生物としては、大きく分けると、ミリメートルサイズで遊泳力の弱い動物プランクトン(おもにカイアシ類)や魚卵、センチメートルサイズで遊泳力があるマイクロネクトン(オキアミ、ハダカイワシ、イカ稚仔など)、10 cmサイズのネクトンである表層や中層に生活する多穫性浮魚やイカ、海底に生活する底魚(カレイ、メバルやギンポなど)、海岸の浅瀬にいる貝・ヒトデなどの潮間帯生物があります(綿貫 2010)。このうち多獲性浮き魚が、多くの海鳥の生活を支えています。
重要な餌は多獲性浮魚です。北極海のハシブトウミガラスおよびハジロウミバトはホッキョクダラBoreogadus saida、ベーリング海や北海のウミガラス類、ミツユビカモメ、ウ科はカラフトシシャモMallotus villosus、イカナゴ類Ammodytes、ニシン類Clupea spp.、スケトウダラTheragra chalcogramma、オキアミ類、大西洋西岸の亜寒帯海域のウミガラス類はカラフトシシャモ、シロカツオドリはニシン、カラフトシシャモ、タイセイヨウサバScomber scombrusに加えイカも食べます。南半球で繁殖し北太平洋移行領域で越冬するハイイロミズナギドリの越冬地での主たる餌はサンマ、カラフトシシャモなどの魚です。中緯度における湧昇域ではマイワシ類Sardinopsとカタクチイワシ類Engraurisが重要な餌となっています。マイワシ類とカタクチイワシ類は10年スケールで大きな資源変動を繰り返すことで有名であり、その資源変動は海鳥の生活に劇的な影響を及ぼします。
綿貫豊・北海道大学大学院水産科学研究院・教授
参考文献
綿貫豊 (2010) 海鳥の行動と生態: その海洋生活への適応. 生物研究社.
綿貫豊・高橋晃周 (2016) 海鳥のモニタリング法. 生態学フィールド調査. 共立出版.
バイオロギング技術を使った海鳥目線の研究
ここ三十年のバイオロギング技術の進歩は目覚ましいものがあります。GPS装置や加速度、水圧や温度記録に加え、海鳥に装着したカメラやビデオロガーによる画像の記録は海鳥目線の研究を可能にしました。画像データをどう役立てているか二つの例を紹介します。
その一つは、海鳥をデバイスとした海洋環境監視技術の開発です。外洋域での情報収集には資金と労力がかかりますが、そうした海域での人間活動由来のストレスも実はかなり大きい場所があることがわかってきました。そうした海域の監視デバイスとして海鳥を使えないでしょうか? 海鳥は高次捕食者の餌となる糧秣魚類が安定的にいるホットスポットすなわち外洋表層域の重要海域を探し出し、その場所を繰り返し利用します。海鳥をつかって海洋をまんべんなく監視することは難しい代わりに、海鳥は自らホットスポットを発見してくれるので我々が特に監視したい重要海域を監視するデバイスとしては適しています。
海鳥の位置を記録すると同時に海鳥に装着したカメラ・ビデオロガーによって海鳥目線の画像を記録することで、さまざまな情報を集めることができます。アホウドリ科、ミズナギドリ科は遠くから操業中の漁船を発見し接近するので、漁業ストレスの監視に役立つ可能性があります。画像データが興味深いのはどういった漁業活動に関連した採食行動なのかわかることです。ハワイのオアフ島で繁殖するコアホウドリの背中にGPSとビデオロガーを装着し、海上での移動を調べつつ画像記録を行なったところ、その個体が近づいていった漁船の種類や操業形態、場合によっては船名がわかるほどの画像を得ることができました(Figure GPS on the back of Phoebastria immutabilis; Figure the bird view)。こうした情報は混獲低減の効果や投棄魚の影響を明らかにする際に役に立つかもしれません。また、船による調査が行き届かない海域においては、レーダーの照射波を記録するデータロガーをGPSデータロガーと一緒に海鳥に装着して、VMSや操業日誌からは得ることが不可能なIUU船(密漁船)の位置を知る試みを行われています(Weimerskirch et al. 2020)。
さらに、カメラ・ビデオロガーは海鳥がいった先の、外洋域での海洋ゴミも記録できます。海表面に浮いている餌を幅広く食べるアホウドリ類は、特にプラスチックなどの海洋ゴミの摂食頻度が高いことがわかりました。また、投棄された漁網へ絡まって死ぬこともあるでしょう。我々は、山階鳥類研究所と共同して、東京から約580 km南に位置する伊豆諸島鳥島において、子育て中のクロアシアホウドリにGPS記録計(2分間隔で位置を記録)とビデオ記録計(日中の明るい時間帯に3秒間の動画を2分間隔で記録)を同時に装着し、13羽から位置情報と映像データを収集、解析したところ、9羽の動画に、海面に浮かぶ発泡スチロールや漁具など計16個の比較的大きな海洋ゴミが撮影されました(Nishizawa et al. 2021) (Figure debris in ocean)。採食場所との関係を分析したところ、クロアシアホウドリは、伊豆諸島周辺海域で採餌しており、また、ゴミと遭遇した回数が多かったのは、黒潮の南側の海流がゆるやかな海域でした。この研究は、この海域はゴミが多いと同時にクロアシアホウドリもよく使う場所であり、摂食や漁網への絡まりが発生する潜在的リスクが高い海域であることを示しています。
もう一つは海鳥の採食行動・生態のより詳細な研究が可能になったことです。これまで海鳥の餌は繁殖地に戻った親を捕まえて、胃内容を吐戻させたり、くわえていた餌を採取したりして調べ、採食行動は船からの断片的な観察にとどまっていました。近年はバイオロギングにより、くちばしの開閉や首の動きを加速度データロガーで記録することによっても調べられています。しかし、何を食べたのかはわかりませんでした。我々が、スコットランドの研究チームと共同して、スコットランドのメイ島で繁殖するヨーロッパヒメウから、画像データと潜水データを得て、その採食生態をより詳しく明らかにしています。それまでイカナゴを主に食べていると考えられたヨーロッパヒメウに搭載したデータロガーで、その個体の餌の捕獲や採食しているマイクロハビタットの映像を得ることに成功しました。その結果、ある年には、岩やカイメンが優先するハビタットを中心に、40 m近い海底までまっすぐに潜る潜水を繰り返し、岩に隠れているギンポを食べていたことが明らかとなりました(Watanuki et al. 2008) (Figure the capture photo by Y. Watanuki; ヨーロッパヒメウの背中につけたカメラロガーが撮影した魚をくわえて海面に浮上した瞬間。スコットランドメイ島2007年)。他の年には海底が砂地の場所をよく利用し、海底の砂にくちばしを突っ込んで掻き回してイカナゴを食べていました。
これまでの研究でアホウドリ類の胃内容物からイカの口器(いわゆるカラストンビ)がよく出てきており、そのサイズからイカの大きさを推定すると、外套長で1 m近い巨大なイカを食べていることがわかっていましたが、それをどのように食べていたかはわかっていませんでした。ハワイで繁殖するコアホウドリにGPSとビデオロガーを装着して調べたところ、亜熱帯海域で産卵後に死んで海面に浮いている巨大なヒロビレイカなどをついばんでいるところが撮影されました(Nishizawa et al. 2018)。
西澤文吾・国立極地研究所・JSPS特別研究員
綿貫豊・北海道大学大学院水産科学研究院・教授
参考文献
海鳥による捕食量
海鳥は、クジラ類やサメ類などと比べると、海中にいるイメージが薄く、海洋における「捕食者」という認識は低いようです。しかし、海鳥の食べ物は全て海洋生物(動物プランクトン、魚類、イカ類など)であり、正真正銘の海洋生態系の高次捕食者です。その捕食量は大型魚類、海棲哺乳類に次いで多いと考えられており(Bax 1991)、全世界の海鳥の年間捕食量(7000万トン)は、年間漁獲量(8000万トン)とほぼ同等です(Brooke 2004)。特に、時期や海域を限れば、その捕食量は他の高次捕食者をしのぐ場合もあり、決して無視できません。
海鳥は、離島などで数十-数百万個体におよぶコロニーを形成して集団繁殖します。繁殖中の親鳥は、抱卵や給餌のために定期的に繁殖地に戻る必要があり、その採餌海域は繁殖地周辺に限定されます。そのため、大規模なコロニーの周辺海域では、一時的に莫大な餌が海鳥によって消費されます。最近の研究で、海鳥のコロニーが集中する世界の5海域における海鳥の捕食量の年変動が報告されており(Saraux et al. 2020)、各海域における捕食量は、平均的には餌となる魚類資源量の1%程度ですが、資源量が少ない年はその捕食量のインパクトは大きくなり、魚資源量が最大の15-18%以下に減った年は、その20%弱にもおよぶ量を海鳥が捕食すると推定されました。これは海鳥の捕食が、時として、餌資源に重大なトップダウン効果をおよぼす可能性を示しています。
海鳥の捕食量は普通、Bioenergetics modelによって推定されます。捕食者の個体数、1個体1日あたりのエネルギー要求量(kJ/日)、餌構成(たとえば重量割合)そして餌生物のエネルギー密度(kJ/g)のパラメータからモデル計算で推定されます。エネルギー要求量(kJ/日)に個体数をかけると、集団全体の1日あたり必要エネルギー量(kJ/日/集団)になります。一方、餌構成と各餌種のエネルギー密度(kJ/g)からは、鳥が必要とするエネルギーのうちの何%をどの餌種で賄っているか(エネルギー割合)が推定されます。集団の必要エネルギー量(kJ/日/集団)に、このエネルギー割合をかけてやると、集団が1日あたりに消費した各餌種のエネルギー量(kJ/日/集団)となります。これを再度、各餌種のエネルギー密度(kJ/g)で割ると、集団による各餌種の捕食量(g/日/集団)がわかり、ここに推定したい期間(日、たとえば繁殖期の長さ)をかけあわせると、集団による各餌種の捕食量(g/期間/集団)が算出できます(綿貫・高橋 2016)。
海鳥は、陸上でコロニーを作るため、集団の個体数を比較的簡単に数える(推定する)ことができます。また、野外で自由に動く親鳥のエネルギー要求量も、2重標識水法といった方法で酸素消費速度を調べることで推定されます。さらに、餌構成についても、繁殖地において親鳥が持ち帰る雛の餌や、親鳥自身の胃内容物を調べた情報が豊富にあります。これらの情報を得やすいメリットがあるため、海鳥の捕食量(特に繁殖期)は、鯨類や大型魚類など他の高次捕食者よりも高精度で推定できます。
Bioenergetics modelを用いて海鳥の捕食量を調べた私たちの研究(Okado et al. 2020)を紹介します。サケOncorhynchus ketaは日本の最重要漁業資源の一つで、その資源量には大きな年変動があることが知られています。年変動の要因のひとつとして、河川から海に降りた直後の海洋生活初期における捕食による死亡数の変動が考えられています。孵化放流事業によってサケ資源の増大をはかってきた日本では、死亡しやすい(捕食されやすい)サケ幼稚魚の特徴に関する研究が盛んにおこなわれてきましたが、実際どのような捕食者にどれほど食べられているかはほとんどわかっていませんでした。
私たちは、北海道周辺で広く繁殖するウトウCerorhinca moncerataの採餌生態を調べている過程で、北海道東部厚岸町の大黒島で繁殖する個体が頻繁にサケ幼稚魚をよく食べていることを発見しました。ウトウは雛のための餌を丸ごとくちばしにくわえて持ち帰るので(Figure Cerorhinca monocerata eating fish; ホッケ幼魚をくわえて繁殖地に降りたウトウ. 夜間のみ島に戻ってくる. photo by M. Itoh)、餌の体長や体重を測ることはもちろん、摘出した耳石の分析などもできます。孵化放流されたサケ幼稚魚の耳石には、温度標識という由来河川特有のマーキングがついている場合があり、これを調べたところ、大黒島のウトウは、遠く離れた道南の遊楽部川などから降海し、成育場のオホーツク海を目指して回遊途中のサケ幼稚魚を食べていたことがわかりました(Figure The map)。さらに、Bioenergetics modelによって、育雛期前半(約26日)のウトウのサケ捕食量を推定したところ、その捕食量は北海道太平洋側で放流されたサケ稚魚の0.3-9.2%に相当すると推定されました。本研究は、海洋生活初期の後半のサケ幼魚の死亡要因として、海鳥による捕食が重要であることを示唆したはじめての研究で、その資源変動メカニズム解明の一助となると期待できます。
大門純平・北海道大学大学院水産科学院
綿貫豊・北海道大学大学院水産科学研究院・教授
参考文献
綿貫豊・高橋晃周 (2016) 海鳥のモニタリング法. 生態学フィールド調査. 共立出版.
Bax N.J. (1991) A comparison of the fish biomass flow to fish, fisheries, and mammals in six marine ecosystems. ICES Mar Sci Symp 193:217-224.
Brooke M. de L. (2004) The food consumption of the world's sea birds. Proc R Soc Lond B Suppl Biol Let:246-248.
Saraux et al. (2020) Seabird-induced natural mortality of forage fish varies with fish abundance: Evidence from five ecosystems. Fish Fisheries 22:262-279.
海鳥とプラスチック
軽量で容易に形を変えられるプラスチックは、今日の我々の生活に欠かせなくなっています。しかし、過去65年間に廃棄されたプラスチックのうち、リサイクルされたのはわずかに10%程度で、およそ60%は埋め立てられています。廃棄されたプラスチックの一部は海洋へ流出し分解されないため、海洋での累積プラスチック量は増え続けています。海中のプラスチックは、波や紫外線によって細かく破砕され、魚から海鳥、鯨までさまざまな生物により飲み混まれていることが報告されています(山下ら 2016)。特に、海鳥のプラスチック取り込みは、数多く報告されており、2050年までに全種の99%がプラスチックを取り込むと予測されています(Wilcox et al. 2015)。中でも、海表面で採餌する大型の海鳥であるアホウドリ類では、その取り込み頻度や量が多く、胃の中から、破片から使い捨てライターまで、様々なサイズと形状のプラスチックが確認されており、時には、胃潰瘍や腸閉塞といった悪影響が危惧されています。さらに、プラスチックを飲み込んだ海鳥が、プラスチックに添加されている、あるいは、マイクロプラスチックとして海面を漂う間に海水中から吸着した、有害化学物質を、消化の過程で吸収することもわかっており(Tanaka et al. 2020)、その影響も懸念されます。
水産資源調査・評価推進事業(国際水産資源動態等調査解析事業;補助事業)において、混獲生物の食性調査を目的として、日本近海で混獲されたコアホウドリとクロアシアホウドリの胃内容物の分析を行ないました。その際に、コアホウドリの9割、クロアシアホウドリの5割ほどからプラスチックが出現しました。コアホウドリの方が沖合で採餌しており、プラスチック滞留域と遭遇しやすかったのかもしれません。また、コアホウドリは破片状(1羽のコアホウドリの胃からでてきた様々な色のプラスチック、罫線は5 mm、Figure: Plastic debris in the stomach of sea birds) 、クロアシアホウドリは紐状(釣り糸など)のプラスチックをよく取り込んでいることもわかりました。これらの結果は、これまでの研究の結果(Gray et al. 2012) を支持しましたが、発泡スチロールやスポンジの取り込みが多いこともわかりました。日本近海でも海洋プラスチック汚染が海鳥に影響している可能性が示唆されました。
海鳥が海洋プラスチックを取り込む理由とその影響に関しては、まだわかっていないことばかりです。海鳥を通して海洋環境を考えることで、持続的な社会の実現に少しでも貢献できればと考えています。
酒井理佐・北海道大学大学院水産科学院
綿貫豊・北海道大学大学院水産科学研究院・教授
参考文献
山下ら (2016) 海洋プラスチック汚染:海洋生態系におけるプラスチックの動態と生物への影響. 日本生態学会誌 66:51-68.
Wilcox et al. (2015) Threat of plastic pollution to seabirds is global, pervasive, and increasing. Proc Natl Acad Sci 112: 11899-11904.
Gray et al. (2012) Incidence, mass and variety of plastics ingested by Laysan (Phoebastria immutabilis) and Black-footed Albatrosses (P. nigripes) recovered as by-catch in the North Pacific Ocean. Mar Pollut Bull 64: 2190-2192.
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