三船雅也(ロットバルトバロン vocal guitar)| 蔡忠浩(ボノボ vocal guitar)| 河野太輔(渋谷ラ・ママ Booking)
Interview & Text : レジー / Photo : ハギワラヒカル
--- ちょうど 2018年になったばかりなので、最初に 2017年に聴いていた作品で印象に残っているものなどあればお伺いできればなと。
河野: 仕事柄、新しく出たのを随時聴いていくんですけど・・・最近好きなものを挙げるとすると、ロックよりも R&B、ソウルが多くなりますね。2017年の後半特に聴いていたのは Sabrina Claudio です。
蔡: 今の R&B とかソウルはいろんなのが出てきていて楽しいですよね。MOONCHILD の新譜もめちゃくちゃ気持ちよかった。
三船: そういうジャンルの音は、現状だとロック・ミュージックよりもちゃんと今の時代に合わせてアップデートされていますよね。僕にとって 2017年は・・・自分たちが影響を受けてきたいろんなミュージシャンの戦っている姿を見ることができたのが良かったなと思っています。Dirty Projectors が挑戦的なことをやったけど、ミュージシャンからの評価は高かった反面、一般にはなかなか届かなかったり。僕はすごく好きなんですけどね。あとは St. Vincent も新しい世界に飛び立った感じで。
蔡: あとは 2016年作品だけど Louis Cole もよく聴いたなあ。しっかり聴いたらミックスとかマスタリングはかなり下品な感じではあるんですけど(笑)、それも含めて今っぽいなと思うし、サブスクリプション・サービス上だとこういう曲と古いジャズとかが並べて聴けるわけで、すごく面白い環境だなと思います。
--- 今話題にもあがりましたが、2017年は Spotify のようなサブスクリプションサービスが音楽市場全体に浸透した印象があります。こういったサービスについて皆さんはどのような考えをお持ちですか。
三船: 僕はポジティブですよ。昔はバイトをしながら「この CD とあの CD どっちを買うか・・・」ってやっていたわけですけど、そういう金銭的な制約から解放されてたくさんの音楽を聴けるのが今の時代じゃないですか。
蔡: 俺も Apple Music を使ってますけど、音楽を聴く量は間違いなく増えましたね。
三船: 僕もです。だから古いものにリスペクトを持ちつつも、新しくて便利な音楽の楽しみ方ともうまく向き合っていきたいと思っています。この先、そういう環境でたくさんの音楽を聴いて育ってきた人たちの作った音楽が聴けるはずなので、それも楽しみです。
蔡: もちろん 「音楽は YouTube でしか聴かない」みたいな人に出会って萎えることもありますけど、若い子の音楽の聴き方が変わっていくのは当然ですし、「CD を買ってくれないと俺たちは生きていけないんだ!」とか言っても仕方がないというか(笑)。音楽を「作る 」ことと違って、音楽を「売る」ことは一種の商売なんだと俺は割り切ってやっているんで、我々側がいろいろな変化に対応しながら新しいことをやって行くのが大事なのかなと思っています。
--- 今の時代、音楽の聴き方というのは絶えず変わっているわけですが、河野さんはライブハウスでどんな音楽の楽しみ方を提供したいと考えていますか?
ラママのブッキング哲学 -- 「YouTube の関連動画に出てこない2組を」
河野: そうですね、ラママではツーマンのブッキングというのをずっとこだわってやっているんですけど・・・自分が組み合わせを考えるときに意識しているのは、" YouTube の関連動画に出てこない 2 組 "なんですよね。音楽性が直接的に似ているというわけでもない、世代も少し違う、でもどこか重なるんじゃないか。そういう組み合わせのブッキングをして、来てくれたお客さんに「対バンしてたバンド、そんなに知らなかったんだけどすごく良かったな」と思ってもらえればいいなと。
--- なるほど。アルゴリズムからは出てこない組み合わせをいかに作れるか。
河野: はい。たぶんボノボとロットも、今は関連動画には出てこないんじゃないかな。
三船: 今回のイベントは、インターネットのレコメンドに抗う企画なんですね。
河野: 基本いつも、あらゆるものに抗ってますね(笑)。そもそもツーマンに力を入れ始めたのも、イベンターがラママをあまり使ってくれないから「だったらもう使わんでいいわ、自分たちで企画する」っていう気持ちから始まってたりするので・・・(笑)。
あと、最近はフェスがいたるところでやってるじゃないですか。4月にアラバキがあって、そこから毎週のようにいろんな場所で行われているわけで、そうなるとライブハウスで週末のイベントを組むのがほんとに大変なんですよね。フェスが楽しいのはよくわかるんですが、ライブハウスの人間としてはそういうのに対しても「ふざけんじゃねえ」みたいな気持ちもあります。
いろいろな制約がある中で、「ここでしか見られない組み合わせ」を必死で考えながら、絶対にチケットを売り切るぞという気持ちでやっています。
--- 今回のボノボとロットという組み合わせはどのようなところから思いついたんでしょうか。
河野: もともと三船くんと蔡さんのどちらに対しても「尖ってるなあ」という印象があって、どこかで一緒にやってもらいたいと思っていました。ボノボとロット、2バンドとも自分の中では「時代の流れにはまらない、はみ出しているバンド」なんですよね。
あと、ボノボもロットも楽曲の中にひとつの物語があるというか、組曲っぽいなと感じていて。たとえばボノボなら「3月のプリズム」、ロットなら「氷河期」とかなんですけど。そういう音楽を今の時代にやっているバンドはなかなかないので、共演したらきっといい化学反応が生まれるんじゃないかなと。
---「組曲」というキーワードが出ましたが、お二方にとってピンと来るものはありますか?
蔡: 組曲という言葉は『 23区 』というアルバム( 2016年 9月リリース)に入っている曲のタイトルにも使っているんですが( 1曲目の「東京気象組曲」)、ちょうどあのアルバムの前の『 ULTRA 』『 HYPER FOLK 』の頃は、組曲っぽいものを作っているという意識が強かったかもしれないです。
どちらも震災以降の作品なんですけど、ああいうことがあった後に今までどおりのラブソングは作れないなという気持ちがあって・・・被災地の人たちとも関わったりする中で日常のの捉え方もずいぶん変わったし、その感覚、たとえば今見えている風景とか気温とか匂いとか、そういうものをしっかり作品で表現したいと考えていたんですけど、そのプロセスの中で一曲に詰め込む情報量がどんどん増えていったんですよね。それが組曲っぽい感じとして表れているんだと思います。
三船: 僕の場合は必ずしも組曲にしたいと狙ってやっているわけではないんですが・・・友人の岡田くん(岡田拓郎)とか吉田くん(吉田ヨウヘイ)なんかは大きいマップに基づいて音楽を作っているように見えるんですが、僕はもっと本能的にやっていると自分では思っています。
ただ、蔡さんのお話にあった「風景を音楽で表現する」みたいなところはボノボとロットの共通する部分だと僕も感じます。「音楽から連想される景色」が見えてきたり、「景色から連想される音楽」が聴こえてきたり、どちらもそういうものを志向していると思っています。蔡さんの作る音楽を聴いていると音ありき、サウンドの気持ちよさを大事にする人なんだなというのがよくわかるし、そこに日本語の歌が心地よく混ざり合っているのがすごくいいなと感じています。
--- 三船さんと蔡さんは、ラママというライブハウスに対してどんな印象を持っていますか?
三船: 以前、スピッツの自伝のような本を読んだんですけど、そこに「ラママに出るためにオーディションがある」という話が書いてあったんですよ。スピッツも、あとミスターチルドレンもイエローモンキーもこのステップを踏んできたんだな、そういう日本のロックの歴史にご挨拶しておかなくては、という気持ちでオーディションに臨んだんですが・・・最初は怖かったんですよ、河野さんのことが。
河野: (笑)
三船: なんか、「ただじゃ出せねーから」みたいな感じで・・・(笑)。ただ、そもそもロットの2人はテニス部でダブルスを組んでたりしていたので、そういう「試練を乗り越えないと先に進めない」というようなスポ根っぽい状況が結構好きなんですよね。で、出させてもらえるようになってからは、最初怖かった河野さんからもほんとにいろいろなことを教えていただいて、それ以来ずいぶん長くお世話になっています。ここで「音楽シーン」というものを知りました。
蔡: ロットはラママがホームってことですよね。羨ましいです、そういうの。ボノボは結成してからデビューまでがわりと早くて、気がついたら事務所とかレコード会社とかに所属していたって感じだったから、地道にライブハウスでライブを重ねていくっていう経験が実はあまりないんですよね。ラママには自分たちがすごく好きなフィッシュマンズとか錚々たる人たちが出ていたことは知っていたので憧れはあったんですけど、なかなか縁がなくて。最近になって呼んでもらえるようになって、とても感慨深いです。
河野: ボノボにはまだ出ていただいた回数は少ないんですけど、僕はずっと好きで、オファーは以前からしていました。ボノボと昔からラママに出ているロットの組み合わせはこのタイミングで是非ともやりたかったので、実現して嬉しいです。
蔡: 今のメンバーになってから、ライブがすごく楽しいんですよね。イメージしているリズムやグルーヴが出せるようになったので。
三船: 最近のボノボのステージからはその楽しい感じがすごく伝わってきますよね。ロットとしても、2018 年一発目にそういう楽しいバンドと共演できるのは良かったなと思っています。
蔡: ただ、俺古いタイプのバンドマンなんで、対バンのときは相手が誰であれ殺しにかかるつもりでやりますよ(笑)
三船: 怖っ!(笑)。まあでもそれが礼儀ですよね、ロックの伝統として。
---最後に、2月4日のステージに向けて、やりたいことなどあれば教えてください。
蔡: セットリストをどうしようかなと今まさに考えているんですけど。それこそさっき話した『 ULTRA 』とか『 HYPER FOLK 』の曲だったら今回の組み合わせにがっちりはまるんだろうなってのがあるんですが、音数が多いので演奏が大変なんですよね(笑)。やり方含めてメンバーと相談しようと思っています。
三船: 僕らもセットリストは考え中です。
河野: この日は岡田くんも出るんだよね。
三船: はい。去年も一緒にやったんですけど、今回もいろいろ試してみたいなと思っています。
河野: ロットもボノボも、音源とライブの音像がいい意味で違うので、きっとこの日にしか見られないステージになると思います。僕も楽しみにしています。
bonobos(ボノボ)
2001年 8月結成。レゲェ、ダブ、エレクトロニカ、サンバにカリプソと様々なリズムを飲み込みながらフォークへと向かう、天下無双のハイブリッド未来音楽集団!2015年 7月より蔡忠浩(V,G)小池龍平(G)田中裕司(Key)森本夏子(B)梅本浩亘(D)の 5人体制になり、さらに精力的に活動中。2017年 8月 12日には 6年ぶりとなる日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブを成功に収める。最新作は 2017年 10月リリースの「FOLK CITY FOLK .ep」。
ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)
三船雅也 (vo/g)、中原鉄也 (dr) による東京で結成された indie rock band。2014年、1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』を真冬のフィラデルフィアで制作。2015年、2nd AL『ATOM』をカナダ・モントリオールのスタジオにて現地ミュージシャンとレコーディング。また US・ASIA でツアーを行うなど海外でも精力的にライブ活動を展開し、サマーソニック、フジロック、ライジングサン、朝霧 JAM など野外フェスティバルでもその音楽性を発揮し多くの聴衆を魅了している。2017年はキャリア初クラウドファンディングにより UK・ロンドンにて EP 盤を製作、11月 9日に新曲 ”dying for” を発表した。
河野太輔(かわのだいすけ)
1985年 1月生まれ。宮崎県出身。自身のバンドでドラマーとして活動後、2005年に La.mama に入社。入社後はイベントの企画制作、新人アーティストの発掘や育成、レーベル運営など活動は多岐にわたる。
LIVE INFORMATION
Wordplay vol.50 - ROTH BART BARON x bonobos -